描けば描いた分だけ素敵な作品になる
出会いは大学2年生の時だった。「何かを作りたい」と漠とした思いで入学した東京藝術大学のデザイン科で、田中美妃はアニメーションと出会った。
「自分の描いたものが初めて動いた時は感動しました。絵を描くことが好きだったけれど、時間軸のある世界はより面白かった」
重力のない世界、現実には起きようもない動きやカメラワーク。全てはアニメーション作家の思いのまま。その自由なクリエイションに田中は惹かれた。
アニメーションの制作には膨大な時間を要する。田中の場合はまず、自分が描きたいと思う1枚の絵から制作が始まる。ストーリーは考えず、独立した一枚絵を何枚か描いてから、それぞれの絵の接点を探し出し、ストーリーを生み出していく。
「まっすぐにつなげることも、グニュグニュと時空を曲げてつなげることもできる。どうやって次の絵につなぐかを考えるのが、一番楽しい時間ですね」
ストーリーができたら物語の場所、登場人物の年齢や性格などの設定を固め、ようやく描画に入る。作品によっても違うが、ストーリーが決まった状態から、1分間のアニメーションを描きあげるのに、少なくとも1カ月弱はかかるという。
「作品を作っている期間は、割とずっと苦しいですね(笑)。話が面白くない、いつも同じようなエンディングに行き着いてしまう、アイデアが出ない、うまく描けなくて苦しいし、思ったとおりの動きになっていなくて苦しい。そんなことの繰り返しです」
だからこそ思いどおりの作品が完成した時のうれしさは格別。「描けば、描いた分だけ素敵な作品になる」と、ゴールを目指し、コツコツと積み上げていく。だが、大学生時代は制作時間と日常生活とのバランスをうまく取ることができなかった。
「講師のバイトをしながら学校に通っていたのですが、バイトの比重を大きくしてしまって、制作時間が取れず、失敗しました」
大学院へと進んだ田中は同じ失敗をしないためにはどうしたらよいかと考えていた。キャンパスは上野から横浜へと移り、これまでよりも通学に時間がかかる。学校とバイトを行ったり来たりでは、これまで以上に制作時間が削られてしまう。そんな時にキャンパスで見つけたのが、上月財団の「クリエイター育成事業」の募集だった。「作品制作に対しての助成や、経歴のある人への募集はありましたが、上月財団のように、学生も応募できるものはなかなかなくて。私にもチャンスがあるならと、応募しました」。田中は大学院在学中の2008年、2009年の2度助成対象者に選ばれた。
「助成金は日々の生活費に充てたり、制作に必要なスキャナーやプリンタを購入したりしました。お金の心配がなくなって、安堵しましたし、学校に泊まり込んで制作することもできるようになりました」
大学院修了制作の「つままれるコマ」はザグレブ国際アニメーション映画祭で「special mention」賞を受賞。卒業後はアニメーション作家として独立し、NHK Eテレの番組、行政や企業のPR、アーティストのPVなどのアニメーションを担当。幅広く活躍をしているが、田中自身はまだまだ独り立ちには遠いと話す。
「私の絵を使いたい、私の絵が好きだから頼みたいと言われるようになったら、本当の意味での独り立ちだと思っています」
現在は2児の母としても忙しい日々。インスピレーションの源は子どもたちだ。
「もともと壮大なストーリーよりも小さな話が好きなので、子どもたちのクスッと笑えるようなエピソードをストックしています。最近は自主制作ができていないのですが、いつかはストックしたエピソードなどをつなげた作品を描いて、コンペティションでグランプリを取れたらよいなと思っています」。夢は田中の描くアニメーションのように広がっている。