一流のスポーツ選手、そして一流の人間に—漫画家などクリエイターも支援開始
スポーツも支援対象に
21世紀を迎え、新しい時代を切り拓いていく有能な人材を世に送り出すため、どのような支援を行うべきか改めて熟思した。そして新たな奨学助成支援、人材育成事業として、2002年度から「スポーツ選手育英奨学事業」(後に「スポーツ選手支援事業」に改称)を開始した。
なぜスポーツなのか。上月景正理事長はその理由をこう語っている。「スポーツを頑張っている人は練習しなければならず、勉強もしている。アルバイトもできずに活動資金に恵まれない。それでも青春時代に競技に打ち込み、人々に元気や勇気を与えている。十分ではないかもしれないが支援の手を差し伸べたい」
「この支援で成果が出た時に喜んでくれたらそれでいいんです。対価は求めていません。一流選手となって世界で活躍してくれたら喜ばしいが、それよりも一流の人間になってもらいたいと考えています」
「スポーツ選手育英奨学事業」では、日本を代表する現役のスポーツ選手を対象に、選手がさらに競技力を向上させ、記録を更新できる環境を整えてもらうための支援として、助成金を給付することとした。当初は兵庫県出身の学生が対象者で、初年度には8名を選んだ。競泳女子自由形の山田沙知子選手、飛込男子の寺内健選手、新体操の村田由香里選手ら、いずれ劣らぬ有望選手ばかりである。
アスリートを支える研究分野や大会開催も助成対象に
2003年3月に「財団法人 上月スポーツ財団」の設立が文部科学省から許可され、東京都港区北青山に事務局を開設した。上月スポーツ財団の理事長には上月景正が就き、上月教育財団から「スポーツ選手育英奨学事業」を引き継いだ。
上月スポーツ財団は誕生とともに、これまで目が行き届かなかった分野にも目を向け、スポーツ選手や指導者の支援・顕彰事業のほか、選手の活躍を下支えするいわば基盤部分にあたる研究関連分野もサポートした。日本を代表する優秀選手を育成するためのスポーツ医科学分野の研究に対して助成金を支給する「スポーツ研究助成事業」、トップレベルの選手を育成するためのスポーツトレーニングに関する調査・研究を、優れた施設・設備と指導者を持つスポーツセンターや競技施設などに委託する「スポーツトレーニング調査・研究事業」も支援対象とした。
さらに、選手がパフォーマンスを披露する場となる大会の開催も支援。「スポーツ団体・競技大会助成事業」として、スポーツの振興・発展に寄与する国際的または全国的な規模の各種スポーツ大会、競技会の開催に助成した。
こうして、3つの財団がそれぞれの分野で役割を果たしていくことになる。
漫画家、アニメーターなど、クリエイター育成も後押し
教育・文化関連事業の助成を行う上月教育財団では、2003年度から「デジタルゲームクリエイター育成事業」を開始した。情報機器の発達・進化もあって高レベルのデジタルゲームが登場するようになり、文化としての発展が期待される分野の“若き作り手”への支援である。デジタルゲームにかかわる教育を行う大学や専修学校に在学し、デジタルゲームクリエイターを目指す18歳から25歳程度までの、学業、人物ともに優れた生徒・学生に奨学金を支給した。
翌年には、新たに「漫画家育成事業」(現・クリエイター育成事業)を開始。漫画家・アニメーター・イラストレーターなどを目指す15歳から25歳程度までの年齢層が対象で、応募作品が一次選考に通過すると、二次選考会で実技審査と面接を行って助成対象者を決定する。
「クール・ジャパン」という言葉も生まれ、日本の漫画やアニメが世界から注目を浴びるなかで、新たな才能の出現をサポートした。選ばれた方々には年額60万円を支給。第1回の助成対象者は20名で、その後、応募者数、対象者数ともに増加し、プロの漫画家をはじめ、各方面で活躍している。
スポーツ・教育・文化事業を統合して
上月スポーツ・教育財団に
2005年、財団は大きな節目を迎える。上月スポーツ財団に上月教育財団と上月情報教育財団を統合し、「財団法人 上月スポーツ・教育財団」に名称を変更。スポーツ・教育・文化の分野における3つの事業を統合した財団として新たにスタートした。
2002年度に開始した「スポーツ選手支援事業」(2006年に改称)、「スポーツ団体・競技大会助成事業」「スポーツ研究助成事業」「スポーツトレーニング調査・研究事業」のスポーツ関連事業は変わることなく継続した。
「スポーツ選手支援事業」は、初年度の対象者が水泳、体操の2競技だけであったが、翌年から柔道、スキー、スケート、陸上競技が加わり、2022年には13競技になった。支援対象者数も延べ1,327名と年々増え続けている。
2007年に「スポーツ選手顕彰事業」から名称を変えた「上月スポーツ賞」は、オリンピック、世界選手権などで優秀な成績を収めた選手に贈られる顕彰制度として定着した。第1回の受賞者は、初代スポーツ選手育英奨学生でもある競泳女子の山田沙知子選手である。
「スポーツ団体・競技大会助成事業」では、2004年に開催された「シンクロナイズドスイミング・ワールドグランプリ IN JAPAN 2004」の助成に始まり、その後、全日本体操競技選手権大会、日本陸上競技選手権大会など数多くのスポーツ団体・競技大会の支援を続け、2021年度までで延べ410件を超えた。
情報化社会に対応したソフト開発にも協力
上月教育財団や上月情報教育財団時代も含めて、情報教育研究助成、ベンチャー支援など教育・文化活動においても引き続き支援を行った。
2004年度には、高度情報化社会に対応する児童・生徒の能力育成のため、実用的かつ楽しく遊びながら学べるエデュテインメントソフトの開発研究に助成する「エデュテインメント開発研究助成事業」も加わった。
また、同年に開始した「情報機器給付事業」は、翌年から「教育・文化振興助成事業」へと発展させて、「マイタウンマップ・コンクール」「全国高等学校ロボット競技大会」、さらにWFP国連世界食糧計画(国連WFP)のビデオゲーム「フードフォース」のCD-ROMやガイド冊子制作を助成した。「フードフォース」は、世界中の飢餓の現状とWFPの緊急食糧援助活動を学ぶ体験型ビデオゲームで、飢餓救済と人道援助にかかわる学習機会を提供する手助けをした。
「学生ベンチャー支援事業」は、2008年度から「ベンチャービジネス支援事業」に事業名を変更。学生だけでなく起業を志す若手社会人、起業間もない若手ベンチャー企業経営者を対象に、創業期の事業資金を融資する制度に改めた。
2009年の第11回「ベンチャービジネス支援事業」で優秀賞に選ばれたのは、「双方向型農作物流通システム」のビジネスプランが評価された株式会社坂ノ途中代表取締役の小野邦彦氏。環境負荷の小さい持続可能な農業の実現を目指して、農産物販売事業を立ち上げた。
30年を迎えた財団の活動
財団法人 上月スポーツ・教育財団 30周年記念誌」
教育、文化、そしてスポーツ。社会の流れや時代の要請に応えながら各事業を推し進めてきた上月スポーツ・教育財団は、2012年で設立から30年を迎えた。兵庫県での教育研究助成・奨学助成・教育・文化活動からスタートした財団は、スポーツ支援、漫画家・アニメーターなどのクリエイター育成まで領域を広げ、“人を育てる”事業を粛々と進めてきた。
こうした財団の活動に対して、2010年には文部科学大臣からスポーツ功労団体表彰を受けた。
支援にかかわる競技団体は、2012年時点で水泳、体操、柔道、スキー、スケート、陸上競技、バレーボール、卓球、テニス、バドミントン、フェンシング、ゴルフなど多岐にわたる。
30年を振り返った上月景正理事長は、「少しは社会のお役に立っているかなとも思いますが、これで十分とは思っていません。もう少しニーズに合った支援の仕方があると思います。1つの区切りではありますが、まだまだ発展途上です」と語った。