エールインタビュー1

競泳 大橋悠依

勝敗ではなく納得のいくレースを

大橋悠依

中学や高校から目覚ましい活躍をする選手が多い競泳界において、大橋悠依は遅咲きと言われてきた。名将・平井伯昌監督が指導する強豪の東洋大学に入学してからも、なかなか結果が出なかった。日本代表どころか大学の強化合宿にすら参加することができない2年生の大橋に、平井監督は「早くタイムを出して、もっと俺を忙しくさせてくれよ」と声をかけた。「次は自分も参加できるように頑張ろうと背中を押してもらった言葉です」と大橋は振り返る。

だが頑張ってもタイムは思うように伸びなかった。その理由は貧血にあった。
「原因がわかるまでに半年ぐらいかかりました。その間ずっと、頑張っているのに、体が動かないし、タイムも出ない状況がずっと続いていて。『もう無理なのかもしれない。これ以上続けていくのはしんどい』と競技をやめようと思ったこともありました。それが自分のせいじゃなかったとわかって、すごくホッとしましたし、救われた思いでした」

治療をすると同時に、大橋は自分の水泳を見つめ直した。「勝敗とは関係なく、自分が納得のいく泳ぎやレースをしよう」。そう考えてからの大橋は頭角を現し始め、リオ五輪の最終選考に残るまでに成長した。
「まさか選考に残ることができるとは思っていませんでした。自分はもしかしたらもっと上に行けるのかもしれないという自信につながりました」

2016年、上月財団は大橋を「スポーツ選手支援事業」の認定選手に選出。大橋は助成金を大会のエントリーフィーや海外遠征、高地合宿などの費用や食費に充てた。
「私は筋肉がつきづらく、太りにくい体質で、人よりも多くカロリーを摂取しないと、すぐに体重が減ってしまうんです。補食をとったり、1日3度プロテインを飲むなどして食事にはかなり気を使っていたのですが、食費の負担も大きくて。助成金は本当にありがたかったです」

気を抜くと痩せてしまうほど、競泳の練習はハードだ。大橋の場合、1時間の陸上トレーニングと2時間の水中トレーニングのセットを週8回、ウエイトトレーニングを週2回行う。きちんと食べて、動ける体を作ることもアスリートにとってはトレーニングの一環なのだ。

2017年のブダペスト世界選手権。200m個人メドレーで大橋は銀メダルを獲得。その功績が認められ、2017年に「上月スポーツ賞」を受賞。2019年にも同賞に選ばれた。
「世界選手権でメダルを取ったことで、支援していただいた上月財団をはじめ、多くの方への恩返しができたかなと」

その大橋が初めて挑んだオリンピックの舞台。東京オリンピック競泳女子200mと400m個人メドレーに出場した大橋は圧巻の泳ぎを見せ、2つの金メダルを手にした。

快挙の陰には平井監督からの言葉があった。それは2016年のリオ五輪、男子400m個人メドレーで萩野公介が金メダルを獲得した時からずっと言われ続けてきたものだった。
「萩野選手のレースのように、400m個人メドレーは300〜350mの自由型でしっかり攻めないと、後ろの選手に『追いつける』と勢いづかせてしまう。ここで絶対に詰められてはいけないと言われていました。そこでこの5年、何度も試合で試したのですが、バテてしまったり、最後に体が動かなくなるのが怖くて攻めることができなくて。それが東京オリンピックでやっと思うとおりのレースができた。金メダルを取って、平井先生の教えは当たっていた、頑張ってきてよかったと思いました」

大橋の手本となった萩野は東京オリンピックでの引退を表明。共に戦ってきた仲間の現役最後のレースを間近で観戦して、大橋は込み上げてくる思いを感じていた。
「近年、男子に比べると競泳女子は目立つ活躍がない状態が続いていました。だからこそ金メダリストとして道を切り開いて、私も次世代の子どもたちに憧れてもらえるような選手になりたいという思いが強くなりました」

東京オリンピックで大輪の花を咲かせた大橋は、今後どんな花を咲かせていくのだろうか。

大橋悠依 色紙

※本サイトは、2022年に上月財団が設立40周年を迎えるにあたり記念事業の一環として刊行した記念誌をWeb化したものです。