心強いバックアップで
夢の実現へ一歩踏み出す
本財団は2004年からこれまでに延べ600名以上のデジタルアーティスト・イラストレーター・漫画家などのクリエイターを目指す若者の活動を支援してきました。
第1回から選考委員を務める株式会社手塚プロダクションの松谷孝征社長、長年第一線で活躍している漫画家のくらもちふさこ先生、立体アニメーションの第一人者で幅広く活動している伊藤有壱教授に登場いただき、クリエイターを取り巻く環境と本事業の意義、これまでの選考の思い出や要望などを語ってもらいました。
参加者プロフィール
松谷 孝征(まつたに たかゆき)
株式会社手塚プロダクション 代表取締役社長
1985年から同社社長に就任。
「鉄腕アトム」「ジャングル大帝」「ブラック・ジャック」など、故・手塚治虫の作品やその精神を伝承している。
くらもち ふさこ
漫画家
1972年「メガネちゃんのひとりごと」でデビュー。
代表作に「いつもポケットにショパン」「東京のカサノバ」「天然コケッコー」など。
「花に染む」で第21回手塚治虫文化賞「マンガ大賞」を受賞。
伊藤 有壱(いとう ゆういち)
東京藝術大学 大学院 映像研究科 教授/I.TOON Ltd. 取締役代表
アニメーションディレクター
「宇多田ヒカル『traveling』MVアニメパート」他。
1998年クレイアニメ「ニャッキ!」で第1回文化庁メディア芸術アニメーション部門優秀賞。
若者の創作活動を支える財団の支援に大きな安心と信頼
松谷2004年に上月財団が「クリエイター育成事業」(旧・漫画家育成事業)を始めて。それまで上月財団というとスポーツ選手への支援という印象がありましたから、漫画家の新人を育てる事業を始めると聞いた時は、手塚プロダクションもこの活動に絶対にかかわらなければいけないと思ったのを覚えています。
伊藤私は逆に漫画への力強い応援事業という認識だったので、最初に選考委員へのお誘いをいただいた時は、アニメーションのような新しい表現にも着目をして応援していただけるという上月財団の懐の深さを感じました。
スポーツのように国が支援する文化ジャンルと同列に漫画やアニメの若手を支援してくださるという姿勢は、この事業の何よりの個性であり、勇気であり、そして現在も継続していただけていることに信頼を感じています。
くらもち私の周りにはキャリアがあっても仕事がないという方も多いものですから、若者にとってはそうした厳しい世界に飛び込むには不安があると思うんです。そういった若い方々にとっては、このような事業の後ろ盾があると安心して活動できますよね。
松谷漫画雑誌を出している出版社も、若手を発掘・育成しようと賞を作っていますしね。
伊藤漫画に比べると、アニメーションはまだまだ作り手が育つ素地がとても弱いですね。国内でもコンペティションは増えていますが、賞金がほとんど出ない。海外のコンペティションに出しても、海外には短編アニメーション作家がとても多いので、日本の才能が食いついていくにはまだまだ。若者たちが力をつけるために、返済不要で、1年間継続して支援していただける、若者に寄り添った育成事業というのは、とても上質なものだと感じています。
実技・面接の二次選考は参加者・選考委員の双方が刺激を受ける貴重な機会に
伊藤僕は漫画部門では16歳の高校生が応募していることを最初に知った時、よい意味ですごくショックを受けたんです。
松谷15歳から25歳くらいまでの方を対象にしていますからね。
伊藤作品選考の時に、ちょっと危うげな漫画を描いてきた高校生の女子がいて。作品としての生々しさや切迫した力はあるのだけれど、「このような作品を描くというのは大丈夫なんでしょうかね?」と、先生たちとも軽くお話をしましたよね。ところが面接で実際に会うと、口数は少ないけれど、作品の背景などをしっかり話してくれて、納得したんですね。10代の作り手に出会えたのは、僕にとってもよい経験でしたし、面接で直接想いを聞くことができるというのは、とてもよい選考方法だと思っています。
松谷二次選考に残った皆さんに、接したり、質問をしたりすると人間性や意気込みがすごく伝わってきますよね。
伊藤単純に作品だけを見ると絵がうまい美大生のほうがよさそうだけれど、話してみると10代の子たちに感じるような真剣さとは違う、ぼんやりした答えが返ってくることもあったり。作品を作り切る、真剣に取り組む、クリエイターとしてのブレや迷いのなさが会うことでわかるのはよいことだと思います。
くらもち漫画家というのは孤独な作業ですから、他の方とお会いしたり、創作の様子を知る機会はあまりありません。二次選考の場は参加者の方々もお互いに刺激をもらえるよい機会になっていると思います。
私が覚えているのは、選考に漏れた方が「また次も頑張ります」と声をかけてくださったことですね。私たちも選考をする時は先々のことを考えて点数を付けるわけですが、責任があるので、散々悩むわけです。それでも漏れてしまった方に対しては、正直もう一度チャレンジしてほしいと思いますので、前向きな言葉をかけていただいたことがすごくうれしかったですし、印象に残っています。
松谷そう言っていただけると僕たちも励みになりますよね。とはいえ、作品の内容が第一だと僕は思います。
くらもち確かに作品が第一ですけれど、私は同じくらいの比率で性格も重視したいと思っています。あとは不完全ではあるけれど、完成されたものよりも魅力がある作品もありますから、私は「お、この人は」という「引っ掛かり」を大事にしています。
伊藤「引っ掛かり」というのは非常にうまい、よい言葉ですね。僕はどうしても自分が好きではない作品が出ることもあるので、選考の際は嫌いという自分の中の壁を意識して壊し、デフォルトで見られるよう、毎回心の中でスイッチを切り替えています。だから審査の後はクタクタになりますね(笑)。
くらもちデフォルトはすごく大事ですよね。
松谷好き嫌いというのは、作り手側にもありますね。今流行しているものが好きというのはあるのでしょうが、悪魔ものばかりが出てくる年があったり……。
伊藤同感ですね。今だと転生ものや異世界ものは見飽きた感があって。もっとオリジナルで勝負をしたらよいのに、惜しいなと思うんです。
くらもち流行りに敏感であることは大事ですが、長くこの仕事をやっていくには、最終的には個性が大事になりますよね。
伊藤そうですね。もちろんクリエイターの卵たちには模倣の時代があるというのは、僕自身の経験も含めてあることですが。
松谷手塚治虫もそうだったんですよ。水木しげる先生の『ゲゲゲの鬼太郎』がヒットした時に「俺だってこの世界ぐらい描けるよ」って『どろろ』を描いたりしましたから。
ただ、かつて手塚は若手に向けて「あなた方は漫画家を目指すなら、漫画で勉強しなさんな。よい小説をたくさん読みなさい。よい絵画をたくさん見なさい。よい舞台をたくさん、よい音楽をたくさん、いろいろなものをたくさん吸収してこそ、自分が描きたいと思うものが自然に出てくるだろうし、その表現能力もすごく膨らむ」と、話していて、すごくよい言葉だと今も思っています。
くらもち今の言葉は私の心にも染みました。
伊藤この言葉の後では何も言うことがありませんね(笑)。僕もまだ一応表現者の端くれなので、心に刻んでおきます。
厳しい世界だからこそ“好き”を自信に変えてたくましくなることも重要
松谷ところで伊藤先生、IT時代になって、アニメーション制作は楽になりましたか?
伊藤コロナ禍で自宅でも作業ができて、データのやり取りができるようになったという点では楽になりましたが、プロが楽になったことはそんなにないと思います。むしろデジタルツールで誰でもアニメを作れるようになったことで、プロが作る緻密なものよりも、素人が斬新なアイデアでザクザク作ってGIFやYouTubeで見せるもののほうが面白いという受け手側の変化もあって。デジタル化は創作の裾野を広げるという面ではすごくよいのですが、プロがちゃんとした報酬を得るために役立っているかというと、いつまで経っても稼げないという弊害もあります。
くらもち漫画もインターネットで作品を発表して、フォロワーという読者が付くスタイルが確立しつつありますが、全員が同じようにやっていけるかというと実際問題そうではありません。
伊藤アニメーションもYouTubeを活用して成功する人がここ数年で出てきていますが、みんなが成功するほど甘くはないですね。ただ媒体のハードル抜きで個人でも発信できるというのは明るいニュースだと思っています。
くらもち若い方にとってネットはフルに活用できる世界ですし、自分が好きな作品を描ける場所だと思いますので、そこで自分の作品をきちんと仕上げて、リアルな世界では仕事としての作品を作る。半々の形でやっていけるのが理想かなと思います。
伊藤先日たまたま水木しげる先生の「幸福の七カ作」を見つけたのですが、そのなかに「好きの力を信じる」「才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ」とあり、刺さりすぎて忘れられないんですね。アニメーションの場合は、才能ややる気、時の運など、努力ではないところが成功の答えとなることもあるので、ぶち壊すような発言かもしれませんが、クリエイターである自身を「作ることが好きな弱者である」と決めつけず、自分の成功のためにたくましくなる必要がある。それがわかっている人は自然と成功をつかんでいるように見えますね。
くらもち自分が若くて世間知らずだった頃は、ある意味自信過剰だった部分があって、それがよい方向に働くと心が折れることも少ない。その自信は、伊藤先生がおっしゃるように好きだからこそ生まれる自信なんですよね。
松谷まぁ、成功をつかむためには我慢強く生きることですよ。
伊藤・くらもち(笑)
育成事業をさらに周知し活躍と実績を重ねる
松谷僕が「クリエイター育成事業」について1つ思うのは、素晴らしい事業であるのに、まだまだ全国的に浸透していないということです。特定の学校からの応募が多いなど、意外と偏りがある。いろいろな学校にお知らせはしているのでしょうが、もう少し広く広報活動ができるとよいなと思っています。
伊藤そうですね。東京藝大でも「育成事業に興味のある人は奮って応募してください」と伝えると学生たちがとても盛り上がるので、他の学校の学生も出せばよいのにと思います。あまり応募数が増えると敷居が上がってしまうかもしれませんが。
松谷年1回を2回に増やせるとよいと思いますよ。そうすれば選考に漏れた人も即座に「再挑戦したい」と思うかもしれませんし。
伊藤個人的には、僕のゼミ生で支援を受けた学生が、他のコンテストで受賞しても上月財団にきちんと報告していなかったりするんですよね。先日、支援を受け、漫画家としてプロデビューした遠田おとさんが単行本を送ってくださったのですが、そのなかに上月財団に提出した2ページ漫画集が掲載されていて。「これは上月財団のクリエイター育成事業のために描いたものです」とちゃんと触れられていたんです。それを見て、この事業のよさを改めて実感できましたし、財団は支援を行った方々にコンテストなどの受賞や活動を報告してほしいと声かけを行うとよいのではないでしょうか。彼らの活躍や実績を財団が積極的にPRすることも、育成事業を広める上で大事かなと思います。
くらもち「クリエイター育成事業」をもっと多くの皆さんに知ってもらって、財団が50周年を迎える時には、この活動がさらに広がっているとよいですよね。