新たな時代を切り拓く才能を支える—eスポーツなど新分野にも対象を拡大
一般財団法人として新たなスタート
上月スポーツ・教育財団は2013年4月に「一般財団法人 上月財団」として新たなスタートを切った。
将来が期待されるスポーツ選手に対して、スポーツに打ち込める環境を整えるための支援を行う「スポーツ選手支援事業」。2014年度に将来オリンピックなどで活躍できる優れた資質を持ったジュニア選手の枠を新設し、東日本大震災の被災選手を含む83人を支援対象者として認定した。認定式では一人ずつ名前を読み上げて認定書を授与し、年額60万円の助成金を支給した。
認定者を代表して、第15回世界ジュニア陸上競技選手権大会400m銀メダルの加藤修也選手が誓いの言葉として、「上月財団よりご支援いただけることになり、大変うれしく、感謝の気持ちでいっぱいです。オリンピック出場という明確な目標を掲げ、日々、精進していくことを誓います」と述べた。2年後加藤選手は、陸上競技4×400mリレーの代表選手として、2016年のリオデジャネイロオリンピック出場を果たした。
日本オリンピック委員会(JOC)の強化指定選手として国から助成を受けられるようになる前の学生・生徒にとって、競技力を向上させるためのスポーツ環境を整えるのは難しい。そうした世代を十分とはいえないまでも経済的に援助し、競技力を向上させるための支援を続けた。
オリンピック金メダリストに上月スポーツ大賞
オリンピック競技大会で金メダルを獲得した選手には、その栄誉をたたえるため新たに『上月スポーツ大賞』を授与することとした。
2012年には、ロンドンオリンピックに出場し、体操男子個人総合で28年ぶりに金メダルを獲得した内村航平選手に上月スポーツ大賞を贈った。内村選手は、2016年のリオデジャネイロオリンピックでも男子団体と男子個人総合で金メダルを獲得。その団体メンバーのほか、競泳の金藤理絵選手や萩野公介選手、柔道の田知本遥選手らとともに上月スポーツ大賞を受賞している。
2014年の上月スポーツ賞では、世界選手権大会などで活躍したモーグルの星野純子選手、バレーボールの石井優希選手、バドミントンの嘉村健士選手、フェンシングの山田優選手ら22選手に表彰状を授与。このうち、ソチオリンピックのフィギュアスケート男子シングルで日本初の金メダルを獲得した羽生結弦選手に、上月スポーツ大賞を授与した。
この年の表彰式では、受賞者を代表して羽生結弦選手が挨拶した。
「私たちアスリートにとって、この上月スポーツ賞をいただけることは、大変名誉なことだと思っています。この表彰式の前に『上月スポーツ選手支援事業』認定式を拝見し、私も中学2年生の時に初めて出席させていただいたことを思い出しました。あの頃は、オリンピックはほど遠いと思っていましたが、認定していただけたのでより頑張っていこうと心に決めていました。2月のソチオリンピックでは、自分自身の演技に集中することだけを考えて臨みました。3月の世界選手権は金メダリストとして臨んだ初めての試合であり、精神的にも最も大変な試合でした。昨シーズンを通して、選手に必要なことは、向上心、素直な心、そして感謝の心であることを改めて痛感しました。スポーツはとても残酷だと思います。一番努力した者が必ず一番の結果を出せるものではありません。しかし、努力しなければ、結果は決して残すことはできません。私たちは、最高の結果を出すために、感謝の気持ちを持ち続け、今後も日々精進していきたいと思っています」
このスピーチに、「スポーツ選手支援事業」認定選手、「上月スポーツ賞」受賞者をはじめ出席者から大きな拍手が送られ、ジュニア選手は世界の舞台での活躍に向けてよい刺激を受けた。
選手の活躍の場となる大会開催の支援を拡充
2003年度から始めた選手育成のためのスポーツ医科学の分野で取り組まれている研究に対して助成する「スポーツ研究助成事業」は、12年間で100件を超える研究に助成し、その研究成果をスポーツ界で共有するべく、上月財団の公式ウェブサイトで公開している。
国際的または全国規模の大会開催を支援する「スポーツ団体・競技大会助成事業」でも、2013年度以降も数多くの競技大会に、後援、協賛、協力、助成などさまざまな支援を行った。2013年度から2021年度までの間だけでも、250にも及ぶ全日本大会や国内で開催された国際大会をサポートした。
プロとして活躍するクリエイターを数多く輩出
「漫画家・アニメーター育成事業」は、対象の枠を広げて2015年から「クリエイター育成事業」として、若き才能を発掘・支援した。イラストレーター、ゲームクリエイター、デジタルアーティストをはじめ、幅広く創作活動を行っている人を対象とした。毎年、多くの作品応募があり、事業が認知されるにしたがって応募作品も増えていった。
2016年以降は、助成期間中の認定者から定期的にテーマに沿った作品を提出してもらう継続審査を始めた。なかでは「柔道」をテーマにした作品が「柔道グランドスラム大阪2019」ポスターや「第35回・36回皇后盃全日本女子柔道選手権大会」プログラムの表紙として採用された。
白川深紅(第18回「クリエイター育成事業」認定者)
作品提出による継続審査はクリエイター育成という趣旨に沿ったもので、認定者からは「どのように描けば技のかっこよさ、力強さを伝えられるかを考えることで、自分が表現したことのない描き方に挑戦することができた」との感想も寄せられた。
2021年度は全国各地から197名の応募があり、デジタルや手描きで制作したイラスト作品や漫画作品が寄せられ、選考委員による厳正な選考の結果、認定者30名を決定した。2004年度に事業を開始して以降、助成対象者は延べ610名にのぼる。
2005年度と2006年度の対象者、あずみきし氏は2013年から月刊コミック誌に『死役所』の連載を開始。同作品は2022年時点で累計発行部数450万部を超えるヒットとなり、テレビドラマ化された。ほかにも、2010年度対象者で累計600万部を超える漫画『神さまの言うとおり』の藤村緋二氏をはじめ、漫画家やイラストレーター、アーティストとして数多くのプロが誕生。第一線で活躍している。
日本の伝統文化を守る活動にも助成
社会貢献に資する幅広い支援活動として、毎年行われている全国高等学校ロボット競技大会の後援、東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻・アニメーション専攻のDVD制作の助成などを行った。
また、社会貢献につながるものは限定せずに支援していこうという考えのもと、2013年4月からは名称を「教育・文化・社会支援事業」と変更した。
2015年度からは、未来に残すべき日本の伝統文化を守るという観点から「新富座こども歌舞伎」泰明小学校公演を協賛した。明治から大正にかけて東京都中央区にあった歌舞伎小屋「新富座」に由来する歌舞伎公演で、子どもたちの伝統芸能への理解を深め、文化資源を育てる場となっている。
そのほか、ラジオドラマの制作や、三國志の壮大な歴史をテーマにした演劇公演などへの助成も行った。
東京2020オリンピック大会、開催
2021年には、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催された。1年延期となったものの、1964年以来の夏季オリンピック国内開催となった。
2019年5月には東京都新宿区に「JAPAN SPORT OLYMPIC SQUARE」が完成。60を超えるスポーツ関係団体や日本オリンピックミュージアムが入る建物の1階エントランスホールと地下1階エレベーターホールに、「教育・文化・社会支援事業」の一環としてガラススクリーンを寄贈した。作品はスポーツの躍動感を表現した「風、しぶき」を京友禅の伝統技法「金彩」でイメージしたもの。
多くのアスリートの目標であり、長年の努力の成果を発揮する晴れの舞台である東京オリンピック。出場選手のなかに、卓球女子の石川佳純選手、伊藤美誠選手、平野美宇選手の姿もあった。
財団設立30周年記念式典と併せて開催した2012年度の「上月スポーツ選手支援事業」認定式で代表として誓いの言葉を述べたのは、伊藤選手と平野選手の小学生コンビだった。
「目標をしっかり掲げ、毎日の練習に取り組んで日本代表になれるように頑張りたいと思います」(伊藤選手)、「ロンドンオリンピックで、卓球界初のメダル獲得を見て、とても感動しました。私もいつかオリンピックでメダルをとって恩返しできるように頑張りたいと思います」(平野選手)。次世代のエース候補にふさわしく、堂々と決意を披露した。
石川選手も、16歳で2009年度の「スポーツ選手支援事業」の対象者に選ばれ、代表して挨拶を行っている。
そして2021年の東京オリンピック。3選手は女子団体で銀メダルに輝き、伊藤選手は新種目の混合ダブルスで悲願の金メダルに輝いた。
本財団にとってのこの10年は、東京オリンピックを目指して世界に挑んだ選手たちに寄り添い、ともに歩んだ10年であった。
東京オリンピックにはほかにも、財団がこれまでに支援してきた「スポーツ選手支援事業」認定選手60名が出場した。前述の伊藤選手のほか、水泳の大橋悠依選手、柔道のウルフアロン選手、フェンシングの山田優選手が金メダルを獲得。銀、銅を含めて11名のメダリストが誕生した。
2022年開催の北京オリンピック冬季大会には認定選手26名が出場し、スキージャンプの小林陵侑選手、スピードスケートの髙木美帆選手が世界の頂点に立った。
2021年度の上月スポーツ大賞は、東京オリンピック、北京オリンピックの金メダリスト6名へ授与された。
時代の変化を見据え、eスポーツなど新しい分野も対象に
2020年東京オリンピックで初採用されたスポーツクライミングは、ワールドカップで日本人の優勝者が複数出るなど、注目が集まっていた。本財団は2018年2月に開催された第13回ボルダリングジャパンカップ大会から後援を開始。翌年の第14回大会には、財団の支援対象の3名の中学生選手が出場した。
新しいスポーツとして近年注目されている「eスポーツ」は、電子機器を用い、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉えるもので、2018年2月にeスポーツ3団体を統合して一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)が活動を開始した。世界各国で大会が開かれ、オリンピック競技に採用されることを目標として掲げていることから、本財団は2019年6月より日本eスポーツ連合の選手育成に関する支援を開始した。2021年度からは「スポーツ選手支援事業」でも支援対象とし、7名の選手が選ばれた。
この国の将来を担う若い芽を育てる
未来を担う若い人材を育てていく――。その理念は、上月教育振興会の設立以来まったく変わらない本財団の根幹である。一方で、財団の支援事業は価値観の多様化、人々の社会様式の変化などに対応して新分野へ領域を広げ、新しい社会にふさわしいものへと変わってきている。
2019年末に報告された新型コロナウイルス感染症の拡大で、選手をはじめスポーツ界は大変な苦境に陥った。直接触れ合うことが敬遠された教育現場も厳しい対応を迫られている。本財団でも2020年の第19回「スポーツ選手支援事業」認定式が中止になるなど各事業が影響を受けた。新型コロナウイルス感染症で活動の場を失ったアスリート、大会が開けず財政的に苦しくなった競技団体も少なくない。こうした状況のなかで、財団は助成に対してより真摯に向き合い、できる限りのサポートを行っている。
2021年度も、78名を「スポーツ選手支援事業」支援対象者に認定した。「2024年開催のパリオリンピックを目指したい」という若者を、eスポーツのような新分野の挑戦者たちを、世界に飛び出していくクリエイターたちを、財団はこれからも支援し続ける。
上月景正理事長は、「優れた素質を持つジュニア選手やクリエイターの支援をより一層拡充し、この国の将来を担う若い芽を育てる取り組みを、これからも続けてまいりたい」と語る。
上月財団はよりよい社会の形成、公益の増進に努め、より一層の社会貢献を果たしていく。