座談会

スペシャルトーク

言葉にすれば夢は現実になる

座談会メンバー

卓球の伊藤美誠選手はジュニア時代に「スポーツ選手支援事業」認定選手となった筆頭であり、2014年から毎年「上月スポーツ賞」を受賞しています。
世界卓球2021では女子ダブルスで銀メダル、東京オリンピックにおいては金・銀・銅の3つのメダルを獲得し、2021年度「上月スポーツ大賞」が授与されました。

今回はスペシャルトークと題し、伊藤選手、日本卓球協会の宮﨑義仁専務理事、本財団専務理事の東尾公彦による鼎談をご紹介します。
伊藤選手が初めて認定式で登壇した時の思い出から、東京オリンピックの舞台裏や本音、本財団のアスリート支援への思いまで、三者三様に語ってもらいました。

参加者プロフィール

伊藤 美誠

伊藤 美誠(いとう みま)

2016年/
リオデジャネイロオリンピック:女子団体銅メダル
2019年/
全日本卓球選手権:女子史上初の三冠2連覇達成
2020年/
女子ワールドカップ:シングルス銅メダル
2021年/
東京2020オリンピック:混合ダブルス・金、女子団体・銀、シングルス・銅、出場3種目でメダル獲得。

2022年7月時点、世界ランキング5位(スターツ所属)

宮﨑 義仁

宮﨑 義仁(みやざき よしひと)

公益財団法人 日本卓球協会 専務理事

1988年/
ソウルオリンピック卓球男子日本代表。
2001年/
卓球男子日本代表監督に就任。
2004年/
アテネオリンピックから3大会連続
オリンピック卓球男子日本代表監督を務める。
東尾 公彦

東尾 公彦(ひがしお きみひこ)

一般財団法人 上月財団 専務理事
(「スポーツ選手支援事業」選考委員長)
コナミグループ株式会社 代表取締役社長

始まりは10年前の「誓いの言葉」

東尾今日はお忙しいところ来ていただいて、ありがとうございます。

伊藤こちらこそ、ありがとうございます。

東尾伊藤選手が最初に「スポーツ選手支援事業」の認定選手に選ばれたのは2012年でした。まだ小学6年生、12歳でしたよね。

伊藤はい、覚えています。

東尾認定式では、平野美宇選手と一緒に「誓いの言葉」を述べていただいて。

伊藤テレビで見ているアスリートの方々の前でスピーチするというので、2人で何度も練習をしました。当日はオロオロして、心臓もバクバクだったのを覚えています。

東尾そんな風には見えませんでした。

宮﨑私も長年表彰式を見ていますが、若い選手はおとなしく座っている人が多いので、2人のようにキャッキャとはしゃぎながら、周りと楽しそうに話して、溶け込んでいた小学生選手は今まで見たことがありません。

伊藤だから、いつも「静かに」と怒られてばかりだったんでしょうね(笑)。ただ、とても緊張はしましたが、小さい時から大勢の方の前でスピーチをしてきた経験はとても大きかったと思います。大舞台で堂々と戦えるメンタルも培えましたし、どんな場でも言い方を含めて、きちんと自分の思いを発言できるようになりました。確実に今の私に生きていますし、いろいろな面で自分を磨くことができる機会になっています。

宮﨑実は上月財団に小学生選手を推薦したのは伊藤選手と平野選手が初めてだったんです。個人的には「小学生を推薦したら申し訳ないかな」という気持ちも少しあったのですが、卓球協会には小学生のナショナルチームもあるのでダメ元で推薦しました。ところが翌年、上月財団のほうから「できれば小学生を入れてください」と言っていただいて。その気持ちに本当に感動しました。そこからは10歳の部で優勝した男女は、必ず上月財団に推薦するとルール化しています。だから小学生選手への支援は、伊藤選手たちがきっかけなんですよ。

伊藤それはうれしいです。

認定式「誓いの言葉」
2012年度「上月スポーツ選手支援事業」認定式で「誓いの言葉」を述べるジュニア選手時代の伊藤美誠選手と平野美宇選手

ピラミッドの底辺が最も支援を必要としている

東尾私は小学生ぐらいの誰も知らない選手を支援していくところに、財団の価値や意義があると思うんですね。ところで宮﨑さんに伺いたいのですが、21年前、スポーツ振興のための支援事業をスタートする時に、どういう支援の形がよいのかとても悩みました。結局JOCがジュニア選手に毎月5万円の支援金を支給していることから、財団も同額を支援することにしたのですが、例えば今後は、期待値の高い選手に集中して大きな金額をお渡ししたほうがよいのではとも考えていまして。

宮﨑でも選手にとっては5万円も大きな金額ですし、ありがたいと思いますよ。

東尾確かにこれまでいろいろな方にお話を伺いましたが、5万円を本人がアルバイトで稼ごうと思うと、毎日のように働かなくてはいけないそうです。ところが選手は練習もハードですし、トップクラスになると経験を積むために海外遠征もしなくてはいけない。この遠征費を捻出するのが大変なので、ありがたいというお声もいただいています。支援の仕方は、多くの方々にご意見を伺いながら、時代とともに考えていかなくてはいけないと思っているところです。

宮﨑本当におっしゃるとおりで、卓球協会で海外遠征の年間平均額を計算したところ、 一人あたり約350万円かかっていることがわかりました。協会では小学生のトップ選手も年に2~3大会に派遣していますが、学校から強化費が出る中学生とは違い、小学生の選手は親が遠征費を賄わなくてはなりません。日頃の練習にかかるお金も中学生は学校が負担しますが、小学生は全て親御さんの負担です。つまり小学生は、強ければ強いほどお金がかかるわけです。ピラミッドの一番底辺が、一番ご支援を必要としているところなので、卓球協会ではシニアよりも、小学生のナショナルチームの合宿費に予算を多く割いているほどです。

東尾活躍をして、有名になればスポンサーがつきます。だからこそ財団は支援を必要としている、将来を期待される若い選手を支えていきたいと考えています。

宮﨑協会としても、上月財団のように小学生からご支援していただけるのは本当にありがたいです。全ての選手が伊藤選手のように結果を残せるわけではありませんが、上月財団に恩返しをしながら、このご支援が続いていってほしいと思っています。

人間力の向上が次世代を強くする

東尾恩返しというお言葉をいただきましたが、財団に対してよりも、選手の皆さんには小さな子どもたちが「私もあんな風になりたい」と思う姿を見せていただいて、次世代に元気や目標を与えてもらいたい。それこそが恩返しをしていただいたことになると思っています。それに、こうして財団のことを気にかけてくれる協会や選手がいるということ自体がとてもうれしいことですので。伊藤選手も毎回、時間を調整して表彰式に参加してくださって本当にありがたいです。

伊藤こちらこそ小学生の時からずっとご支援いただいて。2014年からは毎年「上月スポーツ賞」に選んでいただき、表彰式にも呼んでいただいて本当に感謝しています。最近は表彰式で年齢のすごく下の子たちから声をかけていただくことも増えました。このような子どもたちが私の試合を見て、頑張ろうと思ってくれているんだと実感しますし、競技生活の励みにもなっています。

宮﨑これは卓球協会の考え方もあると思います。2001年から小学生のナショナルチームを作って、育成を行っているのですが、協会では栄養研修やフェアプレー講習など、競技以外の実習にも力を入れています。勝利至上主義ではなく、人間力を高める教育と強化を行い、その先にメダルがあるという考え方です。ですから合宿中であっても、表彰式などは必ず参加できるようにしています。
3~4歳から競技を始めて、365日ずっと練習してきた子が1日ぐらい練習を休んだからといって、弱くなることはありません。逆に表彰式という貴重な場を経験することで、人間力は高まると思っています。さすがに学校の授業を休ませて表彰式に参加させることはできませんが、「大会前だから遠慮します」というのは、卓球協会としては聞き入れられない。やはり幅広く実体験をすることがすごく大切で、そこで何を聞いたか、何を感じたか、体験したことについてよく考える。これが人間力の向上につながると考えています。

東尾その考え方は素晴らしいですね。

宮﨑幸いにも小学生のナショナルチームを立ち上げてから、成績は上がり続けていますので、今は伊藤選手や平野選手のように、他の選手の見本となるような選手をどうやって育てていくのかを日々考えています。何十年も先の話にはなりますが、私たちよりも多くの経験を積んできている水谷(隼)選手や伊藤選手たちが、あとを引き継いで、日本の卓球界をさらなる高みに導いてくれるのではないかと期待しています。

東尾裾野を広くすることで、そこから強い選手が生まれ、その選手の姿を見て憧れる子どもたちがその競技を始める。競技力の向上にはそういった循環が必要ですよね。

表彰式
2019年度「上月スポーツ賞」表彰式で謝辞を伝える伊藤選手。本財団の表彰式などには欠かさずご参加いただいている

東京五輪「奇跡の試合」で起こったこと

東尾ところで小学6年生の表彰式の時に、伊藤選手と平野選手は私に「東京オリンピックに出ます」と言ったのですが、覚えていますか?私は小学生の子が言うことだからと半信半疑でしたが、5年後には早くもリオオリンピックに出て、東京オリンピックでは出場どころか金メダルまで獲得された。本当にすごいことです。

伊藤リオの時は出場できるならシングルスでも団体戦でも何でも、とにかくその舞台に立ちたかった。そして、東京は絶対にランキング1位で日本代表に選ばれて、金メダルを取るという強い思いで臨みました。そう考えると東京では、高い目標を掲げていたからこそメダルを取れたと思っていますし、言葉にしたことは現実になりやすいと感じています。言ったからには、頑張らないといけないのですが、やはり言葉に出すということは大事です。

東尾アメリカの哲学者、ナポレオン・ヒルの言葉に「すべては人間の精神状態で決まる」「私はできると考えている人が結局は勝つのだ」というものがあるんです。

宮﨑それは伊藤選手がいつも言っていることと同じですね。

伊藤はい。やはり勝てると思ったら勝てる。試合ではもちろんですが、練習でも気持ちが表れるものなのですごく大事です。

東尾東京オリンピックでも気持ちがすごく伝わってきました。混合ダブルスの準々決勝、ドイツ戦の大逆転は本当にすごかったです。

伊藤あれは奇跡としかいえないような状態でした。まずマッチポイントであれだけ差がつくことはなかなかありませんし、ダブルスは自分一人だけでなく、水谷選手と気持ちを一致させなくてはいけないので、難しさが違います。本当に奇跡のような試合でした。

宮﨑シングルスの大逆転は過去にたくさんありますが、ペアは多分初めてじゃないでしょうか。混合ダブルスは男女で1球ずつ打ち合うルールですから、連続してポイントを取ることが難しいんですね。
ただ、あの試合で私は解説をしていたのですが、見ていても負ける気がしないというか。もちろん日本人が負けるような解説はしませんが(笑)、「逆転するにはこうしたらよい」という解説が本当に全部ハマって、あれよあれよと大逆転でしたから。リードしている側が「勝つんじゃないか」と思って守りに入ると、大逆転が起きやすいですね。

伊藤ドイツ戦も相手が守りに入って、私たちが最後までプレーでも、気持ちでも攻め続けたことが逆転につながったと思います。

宮﨑準決勝の台湾も、決勝の中国もすごく強い相手でしたが、よい流れで勝ちました。

伊藤特に決勝の時は気持ちの上でも「絶対に負けない」と思っていて。目を逸らさず、目力で対決するぐらいの気合で試合をしていました。

東尾画面越しでも目力は感じました。

伊藤あとこれは不思議なんですが、東京オリンピックは無観客で行われましたが、試合中みんなの声援がテレパシーで送られているようなつながりを感じたんです。
無観客なのに、「一人で戦っているんじゃない」と思える初めての感覚でした。最後はやりたい放題という感じで、最高に楽しかったです。

宮﨑卓球はオリンピック期間の前半に行われたこともあって、他競技のたくさんの選手たちも混合ダブルスの試合を見てくれていたようです。いろいろな選手が試合後のインタビューで「あの試合を見て、諦めない気持ちの大切さを知り、頑張れました」とおっしゃっていて。

東尾それはアスリートだけでなく、日本国民全体が感じたと思いますよ。「逆境に追い詰められた立場でも、逆転することができるんだ」とすごく勇気をもらったと思います。

伊藤それは私も同じです。準決勝の頃に柔道の阿部一二三選手と詩選手が金メダルを取られて。決勝のシーンを見て「自分たちもいける気がする」と自信が湧いてきましたから。

世界卓球2021個人戦の伊藤選手
ITTF世界選手権ヒューストン大会(世界卓球2021/個人戦)の伊藤選手。女子ダブルスで早田ひな選手とともに銀メダルを獲得

この借りはパリで返す

東尾金メダリストとして何か変化は感じていますか?

伊藤私自身は何も変わりませんが……私はどうしても周りのことを気にするタイプなので、もう少し金メダリストとして自信を持って、しっかり言葉を選びながら伝えていくこと、前に進んでいくことが大事なんじゃないかとは感じています。

宮﨑でも伊藤選手は、東京五輪の成績を本心では喜んでいないですよね。

伊藤はい(笑)。やっぱりシングルスで金メダルを取りたかったですね。

宮﨑シングルスで負けた時の悔しがりようはすごかったですから(笑)。オリンピックで活躍した選手は、大会後バーンアウトすることがあるんですけど、伊藤選手にはそれがまったくなくて。この借りはパリ五輪でしか返せないと燃えているところですかね。

伊藤はい。私は大きな目標がないと、意外と目の前のことに頑張れないところがあって。だから「パリで金メダル」という大きな目標に向かって、これから目の前のことを1つずつ頑張っていきたいと思います。

宮﨑考え方が素晴らしいですよね。

東尾次の活躍も楽しみにしています。

伊藤皆さんのご期待に応えられるよう、これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

座談会風景
座談会の様子

※本サイトは、2022年に上月財団が設立40周年を迎えるにあたり記念事業の一環として刊行した記念誌をWeb化したものです。