3度目の助成対象者に選ばれた2021年に念願の新連載が決定
2021年12月、週刊少年サンデーで新連載がスタートした。漫画家としてデビューしてから3年、『白山と三田さん』は、くさかべゆうへいがようやくつかんだ初連載だ。
田舎に住む地味な高校生カップルの日常を描いた脱力系コメディ漫画は、独特のテンポとせりふがクセになると、連載開始直後からSNSで話題になっている。
「子どもの頃からずっとバトル漫画を描いていたのですが、新人賞などに応募しても、1つも選に入ることができませんでした。そこで気まぐれにコメディを描いたところ、すぐに賞をいただけるようになって。自分がやりたいジャンルと、向いているジャンルは違うものなんだと、コメディを描くようになりました」
東京に憧れ、早く田舎を出たいと願う主人公の白山は、岐阜県出身のくさかべ自身をほぼ投影したものだという。
出版社へ初めて漫画を持ち込んだのは、中学3年生の時。父と高速バスに乗り、憧れだった週刊少年漫画雑誌の編集部を訪ねた。
「少年誌では読者と漫画家の年齢が近いほうがよいと言われていて、若い人の持ち込みのほうが歓迎されるんです」
だがプロである編集者の指摘は、中学3年生に対しても厳しかった。
「厳しいことを言われるんだろうなと覚悟していたので、大きなショックは受けませんでした。むしろ帰りのバスのなかでは、次に何を描いたらよいかと考えていたのを覚えています」
上京後はほかの漫画家のアシスタントをしながら、自分の作品を描き、出版社に持ち込む日々。忙しい現場に入れば、当然自分の時間は少なくなる。さらに漫画家のアシスタントの多くは非正規雇用。連載が打ち切りになれば、漫画家だけでなく、アシスタントも仕事を失うことになる。先行きが見えない日々のなか、アシスタント仲間が教えてくれたのが上月財団の「クリエイター育成事業」だった。
「学生への助成制度はありますが、社会人まで対象にした制度はなかなかありません。アシスタントをしている僕でも応募できるのであれば、挑戦してみようと思ったんです」
くさかべは2018年、2020年、2021年の3度、助成対象者に選出。生活費などはこれまでと同様、アシスタント代で賄い、上月財団の助成金は漫画の購入や映画鑑賞などに充てた。
「漫画を描くというのはアウトプットの作業です。出す分だけ、常に何かを吸収しておかないと、連載を持った時に描き続けるのが難しくなると思っていました」
漫画や映画を観た後は、感じたこと、自分ならどんな風に描くかなどをメモに残した。
「助成金をいただいたおかげで、漫画を買うために生活を切り詰める必要がなくなり、作品づくりに集中できるようになりました」
そして3度目の助成対象者に選ばれた2021年、念願の新連載が決定する。
「最初は読み切り漫画として掲載されましたが、雑誌での評判はそこまでよくありませんでした。ところがウェブに転載されたところ、すごく反応がよくて、連載化が決定しました」
連載は1話読み切りのスタイル。毎回エピソードを考えるだけでなく、読者を飽きさせないように主人公の新たな一面を見せることも求められているという。これまでのインプットの時間がいかに大切だったかをくさかべは今、実感している。
「打ち合わせで編集さんと『あの映画のあそこの展開は使えそうだよね』という話になることが結構あるんです。知識は一朝一夕では身に付きませんから、今までの蓄積がすごく生きているなと思っています」
これまで多くの編集者に出会ってきたが、必ず言われることがあった。「キャラクターを魅力的にすることが大事」。くさかべがこれから、どんな魅力あるキャラクターを生み出していくのかが楽しみだ。